叡知の言葉37
これまで、頼りにして来たことのすべてが、ひっくり返って頼みにならざる時、
かねて用意ある者は、始めて自己に目覚めて自立し、然らざる者は自棄に陥る。
今日までわが一切を捨て去るところ、これ解脱への踏切板というべし。
これを回避しては跳躍は不可能なり。
『下学雑話(一)』
これまで築き上げた財産や信用を全てを棒に振るような挫折を、
人生の中で経験することがあります。
そのとき失意の中で、何を思い、どう行動するか?人間としての器が試される瞬間です。
森はこれを「解脱の踏切り板」と捉えています。
解脱とは仏教における悟りのことですが、
この場合、人生における大きな飛躍のことだといっていいでしょう。
危機の瞬間が実はチャンスだというのは、一見逆説的に見えますが、そこに深い含蓄があります。
古い経験や知識をいったん捨てなければ新しいものは学べない、とはよく言われます。
その意味で、古い人生をいったん清算しなければ、新たな人生を始めることはできないというのも
真実でしょう。
その意味で人生における不幸や挫折は、
新たな発展のために、過去を強制的にリセットするよい機会といっていいかもしれません。
しかし、このように理解して前向きに生きるためには、「かねての用意」が必要です。
それはすなわち、普段から人生について深く考え、己を磨く努力を怠らないということです。
作家 宮下隆二 |