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まさか、のDVD(4)

翌日の夕方、大瀬戸は奈良県警の古参警部の足立と、県警本部の近くにある居酒屋で会っていた。
足立とは幼馴染で、囲碁仲間でもある。
足立は警察官になってから碁を覚え、その影響で、大瀬戸も碁を打つようになった。

「しかしなあ、明さん、エロビデオやDVDの摘発は、難儀や」
足立は、ゆっくりと冷酒を口に運びながら大瀬戸の話を聞いていた。

「そやけど、盗み撮りは犯罪やろ。何で犯人を捕まえんのや」
「うむ。もちろん、軽犯罪法違反で、場合によっては猥褻図画販売やそのほかの犯罪にもあたる。
そのDVDは、インターネットの裏サイトで買うたと言うたな。知っての通り、あの種のエロサイトは
海外からの発信になっているのがほとんどや。警察でも追跡が難しい」
「盗み撮りをした奴は、分からんのか」
大瀬戸は、ビールをグビグビと飲み、顔もかなり赤くなっている。

「盗み撮りはバレたらアウトやけど、そうでなかったら犯罪になり難い。人に見せたり、売買したら
あかんけどな。そのDVDは自分で制作したのか、投稿か分からん。明さんが持ってたら俺に渡して
くれるか。調べたるで」
「いや、持ってない」と答えた大瀬戸に、
足立は「何で明さんが、そんなエロものに拘るんや」と不審そうな顔になる。

まさか、自分の娘の裸が写っているとは言えないから、大瀬戸は返答に窮した。
足立は奈美のことをよく知っているし、囲碁関係者に洩れたらとんでもないことになる。
奈美の将来は絶望的だし、嫁にも行けないだろう。ひょっとしたら自殺してしまうかもしれない。

渡辺は「もう、何回も見た」と言っていた。
助平オヤジや変態、変態もどきの連中の目に晒されると考えるだけでゾッとする。
足立の話では、国内だけでなく海外でも自由に見ることができるらしいから、コピーをされたり、
パソコンに映像を取り込まれたら、その数は無限に近い。
奈美を知っている者に伝わると、あっという間に情報が広がるだろう。
注目を浴びている女流棋士となればなおさらである。マスコミも興味を持つに違いない。

「どうした、浮かぬ顔をして」
足立が、心配そうに大瀬戸の顔を覗き込んでいる。
「うん、まあな」
大瀬戸は、ジョッキのお代わりを注文した。

奈美が全く知らない間に、自分の裸体が世界中の男たちに見られていると知ったら、どうなるのか。
若い独身女性が全裸で街中を歩くことは、露出狂でもないかぎりありえない。
まして、小さいころから恥ずかしがり屋だった奈美である。
(どうしたら、ええんやろ)という疑問に答えは見つからない。

「なあ、足立はん。俺が女で、自分の裸を盗み撮りされたらと思うと、外を歩くことなんかでけへんわ。
いやらしい男の目が気になって頭がおかしなる」
「ふむ。そうかもしれんな。だいたい、大学の教授でもスカートの中を盗撮するぐらいやから、
世の中、変態はゴマンとおるやろう。ワシは、パンツ覗いて何が嬉しいのか分からんが、
そんなことに目の色を変える連中が多いということやな」
二人の飲む酒はしだいに不味くなってきた。

「なあ、明さん、エロビデオは無数にあるし、そんなもんを見とるやつは、次から次へと新しいもんに
目を移す。一人の女の裸なんか、すぐに忘れてしまいよるわ。
警察にも盗撮被害の相談がよく来るけど、ほとんど泣き寝入りになってるのが現実や。
強姦と違って、被害者の意識も、比較的軽い」
「そんな、あほな。一生の恥やないか。とても忘れられるもんと違うやろ」
大瀬戸は、足立の無責任にも聞こえる話に腹が立った。

「すまん、すまん。確かにそうや。
被害者にとっては、人生が変わるほどの問題やということは、よう分かってる」
大瀬戸は、足立に具体的な相談をしようと考えていたのだが、
結局それを口に出すことなく、ジョッキを空にした。

作家 津島稜