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天才少年殺人事件(3)

その様子を眺めていた和田が、白川が落ち着くのを待って「それで、さっきの女の子ですが」と緊張を
ほぐすような話し方で質問を始めた。

「ああ、沙代華ちゃんですか。あの子も、まあ天才級で、悠太君のライバルです。
悠太君が来るまでは、うちの教室ではナンバーワンでした。
日曜日の大会でも優勝候補の一人と評判になっています。
悠太君があんなことになったので、大阪府代表になるかもしれませんよ、本当に」
「悠太君とは仲がよかったんですか」
「はい。それはもう。年が離れているもんですから、お姉さんのようなもので。
悠太君も沙代華ちゃんになついてねえ」
「沙代華ちゃんは、しっかりしていて気も強いので、悠太君が行儀が悪かったりすると、私も感心するぐらい
厳しく叱ったりするんです。
だから、悠太君は、私の言うことよりも沙代華ちゃんの言うことに従っていました。
ひょっとしたらお母さんよりも沙代華ちゃんのほうが怖かったかも」
「ほっそりして、優しそうなのにねえ、将来はカカア天下ですな」
傍らで黙ったままだった横山が、珍しく口を挟んだ。

「確かにねえ、沙代華ちゃんは、いい奥さんになるでしょうね。料理が好きなんですよ。
うちの家内が昼食の準備をするときには、よく手伝ってくれてます。
碁は激しく攻める棋風なのに、そのへんはさすがに女の子らしいんですよね」
「料理が好きとは、感心ですな。おい、横山、嫁さんもらうんやったら、顔よりも料理の腕やで。
ワシの嫁さんもそうや。碁は弱くても構わん。ねえ、白川さん」
白川はやっと笑顔になり「私が、碁の白石はハマグリで作るのが高級品だと教えると、沙代華ちゃんは
凄く興味を持ったようでした。そして、黒石が那智黒という石で、黒飴のモデルになったと言うと、
それにもびっくりしていましたねえ」と、遠くを眺めるような目つきになり、和田から視線を外した。

「いや、大変参考になりました。今日はこれで失礼します。おい、横山、帰るぞ」
和田は、そそくさと立ち上がり、白川の家から出た。
「主任、これで、われわれの仕事は終わりですね」
歩きながら横山が、寒そうに肩をすくめて和田に言った。
「あほか、お前は。これからが仕事やないか」
和田のその言葉に、横山は理解できないという表情になっている。

谷町署に戻った和田は、刑事課長と長い間、ぼそぼそと会話を続けていた。
「ワーさん、また、あんたの思い込みちゃうか。俺には、納得できん」
「まあ、課長責任でそう判断しやはるんやったら、しようおまへんな。ワシは、一応、署長にも相談して
みますわ」
「なにを勝手なことを。そうか、分かったがな。一応、署長に報告だけはしとく」
宮下は、不機嫌そのものという態度で和田を睨んだ。

翌日、谷町署の近くにある児童会館へ、本間沙代華が両親に付き添われて出頭してきた。
沙代華の両親は、何事なのか全く知らされていなかったので、不安を隠しきれない。
しかし、沙代華は平然として、少しも怯えているような気配がなかった。
沙代華から話を聴いたのはベテランの女性補導官だった。
彼女は、前日の夜と、この日の早朝からも和田と綿密な打ち合わせを重ねて、事情聴取に臨んでいる。

数時間に及ぶ事情聴取の結果報告が、谷町署に届いたのは夕方になってからのことである。

その報告に、和田らは衝撃を受けた。

作家 津島稜